ノートとブレスレット

先日打ち合わせのはしごで、二子玉川→麻布十番→西麻布→南青山と移動した日のこと。

麻布十番の用事が終わってから西麻布での打ち合わせが始まるまでの間に少し余裕があったので、 天気もよかったし、30分ほどの道のりを歩いて移動することにしました。 途中、広尾を通過した時に「F.O.B COOP」本店の前を通りました。 本当に久しぶりで懐かしくなり、思わずお店の中へ。

F.O.B COOP広尾本店は、手前がカフェで、奥が雑貨ショップになっています。 すんごいおいしく飲めそうなビールグラス6個セット1000円台とか、 オリジナルのタオルとか心魅かれるものがたくさんあって つい夢中になって店内を徘徊していたとき、ふとレジに目をやると、 カウンターで何かを熱心に書きつけていたのは、オーナーの益永みつ枝さんでした。

遡ること15年ほど前、インテリア雑誌の編集部にいた私は、 益永さんに電話インタビューをしたことがありました。 相手はなんといっても雑貨業界の大御所。 ソフィア・ローレンみたいな迫力のある美貌と、 雑貨の一大王国を築き上げた実績をもつ憧れの大先輩へのインタビュー。 すごーく緊張して電話をかけたことを覚えています。 でも益永さんは、こちらが拍子抜けするくらいにフレンドリーで、あくまでさりげなく自然体でした。 こちらの質問に、実に要領を得た答えを短く、でも感じよく返してくださり、 「この人はきっと、相手が誰であってもこんなふうに さりげなくかっこよく対応する人なんだろうな」と深く感銘を受けたのでした。

そんな益永さんがお店にいることがわかったので、なんとなくそわそわ。 買いたいものはたくさんあったので絶対レジには行くことになると思うし、 そうしたら何を話そう?と、品物選びよりそちらの方が気になり出してしまいました。

きれいな石ででできたブレスレットを見ていると、 益永さんの方からこちらに近づいてきて、話しかけてくれました。 「それね、インドのビーズで作ってもらったの。可愛いよね。もうだいぶなくなってきちゃったね」


「いやーすんごい可愛いですね。 値段も手ごろなので大人買いしそうですよ。ははは」(←緊張のあまり笑いが引きつる) 益永さんはにっこりと笑って、カフェの方に歩いて行かれました。

時間もだんだんなくなってきてしまい、 オリジナルのノートをまとめて5冊と、ブレスレットを4本(大人買い)持ってレジへ。

「ノートばっかりね。こんなにノート買ってどうするの?」笑いながら聞かれました。 「私、編集者なので、取材でたくさんノートを使うんです。 こういうミニサイズのノートって重宝するんですよ」

それをきっかけにやっぱり、以前の職場や電話インタビューのことをつい話し始めてしまいました。 平日の昼下がり、お客さんもそんなにいなかったせいか、15分ほど話したでしょうか。 一度は大きく広げた店舗事業を、お考えがあって縮小されたこと。 31周年を迎えた最初のお店である広尾店で、初心に返るために店頭に立つことにしたこと。 盟友だったインテリアスタイリストの岩立通子さんのこと。 「置いてけぼりになっちゃったよ、岩立、あんなに早く逝っちゃうんだもんね」

年代の近い、インテリア&雑貨好きの方だったらわかってくれると思うのですが、 益永さんや岩立さん、クニエダヤスエさんや西村玲子さん、 それから昨年亡くなられたデポー39の天沼寿子さんなど それぞれの個性的なスタイルや具体的な方法論で、 インテリアやライフスタイルを楽しむ方法を教えてくれた大先輩たちは 10代、20代の私にとってアイドルに近い存在でした。 雑誌の特集やエッセイ本を穴のあくほど読んだり、 ショップの場所に印をつけた地図を握りしめて 青山や原宿・渋谷、自由が丘、広尾の街を歩き回っていた、高校生や大学生のころ。 お昼やお茶代をケチって、好きなカップやかごを買っては、部屋に飾っていた20代のころ。

30歳のとき、やっと願いがかなって、インテリア雑誌の編集部で働くことになりました。 私は、今のインテリア雑貨業界の基礎を作った大先輩たちと 一緒に仕事をすることのできた、幸運な最後の世代です。

「益永さんがお店に立っているF.O.B COOPは、 なんだかパリにある、名物マダムの雑貨ショップみたいですね。 マダムに会いたくて、近所の人がお茶飲みにやってきていつまでも帰らない、みたいなお店」と言うと、 「お店やってると、やっぱりそういうのが楽しいよね」と同意してくださったあと 「この間も犬を連れて○○さんが遊びに来てね…」と話してくれました。 (でもその○○さんが、誰でも知っているファッションデザイナーだったりするんですよ)

おしゃべりをしながら、益永さんが丁寧にラッピングしてくださったブレスレット。 「すごく似合うわよ。今日の洋服にはこれね」とそのうちの1つをタグを切って手渡してくれました。

大人買いしても、ほんの数千円のお買い物でした。 ノートは仕事の時に必ずバッグに入れていきます。ブレスレットは毎日どれかを身につけています。

益永さんとお話しした短い時間で、本当にいろんなことを思い出しました。 夢をもつようになり、その芽が育っていく段階で出会った人々。 その時自分が考えていたこと。願い続けていたこと。

今、すごく自分の身のまわりが動いているように感じます。 このタイミングで憧れのアイドルの一人、益永さんとお話しできたことは、 あながち偶然でもないような気がするのです。

#111, 1-17-15 Shoan

Suginami-ku Tokyo 

167-0054 Japan

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